2015年9月21日月曜日
勝ったのは「株屋」じゃなくて・・・・
世界的なコンピューターメーカーと地銀の争いでは、最終的に42億円の損害賠償が確定し
ITベンダーの敗北となりました。
コンピュータシステムが巨大化すれば、伴う損害額も膨張するわけで、
そもそも的に百億円訴訟。
ベンダーにとっては「厳しい司法の判断」だったというのが通説。
しかし、二桁億円程度で驚愕していては、IT社長は務まらない。
株式市場の注文システムの瑕疵による400億円強の損害賠償請求訴訟が提訴されたのが
10年前。
最高裁での上告棄却決定で、やっと終結。
確定した賠償額は107億円!
加えて遅延損害金(賠償額を元本に商事法定利息6%の10年間で計算するのかな?)
争ったのは、取引所と誤発注をやらかした証券会社ですので、あんまり興味はありません。
むしろ、瑕疵のあるコンピュータシステムを開発(保守?)した
F通さんの責任はどうなったんでしょうか?
実際上は、その下請けベンダーの社員のコーディングミスなんでしょうが・・・
そこんところがよく見えませんので、とりあえず目の前の「判例批評」
争点はいくつもあります。
まず取引所は「注文(訂正処理を含む)に適切に対応できるシステムの提供義務」があると
されました。当たり前といえばそれまでですが、注文取消処理にバグ(瑕疵)があったわけですから
義務違反が前提にならないと、議論は前に進まない。
取引参加者契約なるものがあり、それには「取引所の賠償責任は故意又は重過失のある場合」に
限られると記載されているらしい。
このような条項は一般的には「信義則違反」とされるが、
市場を適切に運営するという観点からのリスク配分の考え方からすれば、妥当という判断です。
このような責任制限条項が一般的に合理的というわけではなく、個々の局面で変わるものであり、
むしろ「市場」という特殊社会でもの判断だと思われます。
さて、取引所に故意(これは考え難いが)や重過失があったのか?
立証責任は原告サイドに有ります。
何が「重過失」かって・・・まあ簡単にいえば
結果の予見が可能かつ容易
結果の回避が可能かつ容易 にもかかわらず・・・というのが一般解釈です。
開発(PGM修正を含む)局面で言えば
PGMのコーディングミスがあまりに低レベル
バグの発見が容易にできる
バグの修正が簡単にできる ・・・にもかかわらず、遺漏があれば「重過失」ということになる。
書けばそういうことですが、実際上は専門性の高いエンジニアの意見書を提出し
技術論争をやったらしい。
当然意見書の見解は甲論乙駁状態。
ITに詳しくない(と思います)裁判官は、見解が相反している以上、重過失の認定には至らなかった。
実際上どういう内容だったかは、判決要旨に延々と記述されているが、よくわかりません。
サルが見てもって言うような単純なものではなさそうですので、重過失とまでは言い難いという
判断は一定の合理性がありそうです。
通常、バグはあるのが当たり前であるが、初期値であっても極力ゼロにするのがエンジニアのプライド
厳密なテスト仕様書を作成し、そのとおりのテスト結果を文書化しておくことが身を守る術である。
これって非常に大事。
ユーザーテストでは問題はなく・・・ってのんびりしていてはいけないのです。
このままでは、原告の完敗ですが、現実に巨損が発生している以上、不法行為による損害賠償論を
持ちだしています。
しかし「60万円で一株」の売り注文を「一円で60万株」に売り注文と
間違えたことで生じた損害です。
著しく「注意散漫」な担当者だし、画面上アラームがでたのに無視して強行処理をしたようですので
仮に損害を認めても、相当な規模で過失相殺を認定されるはずです(判決では30%の過失割合)
余談ですが、誤った売り注文に真に受けて買い注文を大量に入れる投資家との売買契約関係は
どうなるんでしょう?
明白な「要素の錯誤」であって、原始的に売り注文は無効のはずです。
しかし、取引参加者契約では(多分ですが・・)秒速での取引の安定を重視するため、
かようなことで一々約定をなかったことにはしないという約束があるのでしょう。
さて、裁判所は不法行為を一定範囲で認定しました。
システムのバグに重過失があるとは言えないものの、
売買注文の異常状態を認識しながら漫然と見過ごし、
当然行うべき売買停止措置を行わなかったこと(タイミング遅れ)を重過失と判断したのです。
生じた損害の内、当然行うべきタイミング以降も150億円の損害が発生していたのですが、
証券会社の過失相殺の結果100億円というのが、地裁(控訴審も)の判断でした。
バグが有ったとはいえ、異常注文にはアラームを出すとか一定のシステム的な配慮はしています。
しかし、使いこなせないバカユーザーだとなんにもならない。
カネにはならないが、教育を徹底的にやっておくことでITベンダーも身を守れるって
教訓が導き出される。
ここからは話は下衆になります(笑)
証券会社側の代理弁護士ですが・・・スタープレーヤー揃いのようです。
元最高裁判事に明治維新の元勲の末裔まで
起用したロー・ファームも、超大手で、ざっと20名程度の先生の名前が並んでいます。
通常弁護士報酬は、経済的利益の10から20%程度ですので・・・他人のお財布の中身を
探ってもおもしろくもなんともない。
ところで、実際に開発を行ったITベンダーの責任論ですが・・・
当然、賠償責任制限条項付きの開発契約を結んでいただろうと思われます。
考えられるケースは・・・
1)開発(保守)費用を上限とする
2)1項のとおりであるが、故意あるいは重過失の場合は上限なし
3)故意又は重過失の場合に限り開発(保守)費用を上限(通常過失は責任なし)
ITベンダーとしては「3項」としたいが、かような信義則に反するような条項は
原始的に無効とされそうなので、妥当なところで「2項」で手をうったのでしょう。
一体いくらの開発費用だったか知りません。
それに、総開発費なのか、工程別の契約額か、保守契約部分の費用か・・・
よくわかりませんが、どうも100%ITベンダーにヘッジで来たようには思えません。
判決要旨では、5年間安定的に稼働しており・・・と書いてますので
保守過程での「PGM修正ミス」みたいです。
ということは「年間保守料」が上限ですか・・・
勝ったのは証券会社ではなく、ITベンダーだった(・・・・かな)
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