2018年1月29日月曜日

血を流す政治の日々(アレキサンダー賛歌)



2004年にオリバーストーンの手でビッグバジェットで製作された映画版がありますが、
どうもオオコケしたみたい。
日本でも公開されたらしいが全く記憶にない。
紛らわしいのですが、リンク映像はアンゲロプロス作品で似て非なるもの(笑)


かの危険な著述家は、若くて(別に生物学的な意味ではなく)知力のある近世以前のオスザルが大好きなようです。
当然ながらエレガントだろうし、女性のあしらいも上手にちがいない。
最初の恋人がチェザーレであったことは間違いはないが、初恋とはたいていは目が曇った状態である。
多くの恋の遍歴の果てに・・・アレキサンダー。
彼女によれば「最後の恋」らしい。
あまりに予定調和だと微苦笑を禁じ得ない。

歴史書ではないし、歴史小説でもないし・・・でも行きつけのリアル書店では史書のコーナーに
平置きしていました。
程度の低い女流作家コーナーに並べるのは失礼だと店員が慮ったのでしょうか?

かの三分冊の最後のチャプターが、かの大王の物語。
五百ページ弱の分量のうちで、大王の部分が八割。
最初の百ページは、衆愚化という堕落したクラシックギリシアの惨状という前置き
なくてもよいのではなく、あるからヒーローがより映える。

多少の誤差を恐れずに言えば、ほぼほぼ「東方政略戦史」です。
史上最大最強最高の軍司令官の一人ですから当然と言えば当然。
戦争という「血を流す政治」にいちばん長けた政治家でもあります。
あとは・・・カエサルとチンギスハン。
ナポレオンを入れてもいいが、肝心な時に二度も負けていますから資格なし。


女だてらに(これって差別的言辞らしいが)戦史を書かせるとこの上なく精彩を放ちます。
大王は夭折しちゃいましたから、活躍した時代は戦争に明け暮れていた。
従って女史の一番の得意ネタということです。
これまた「遺作」にふさわしい予定調和(苦笑)


大王の享年 32歳
死因はマラリアとされますが、無二の親友にして股肱之臣の突然の死で心が折れたって
解説のほうがふさわしい。
オリバーストーン版の映画ではゲイの匂いが芬々と漂っているらしいが、なんとなくありげだ。
意図せざる早死にで大帝国はチリジリバラバラになりますが、これはチンギスハンの死後も同じである。
多々益々弁ず・・・こそリーダーシップの本質ということを教えてくれます。


この手の作品にはまことに異例だと思うのですが・・・
文末に「塩野七生さんの遺書」がついています。
自慢じゃないが、塩野さんの主要な(あまりそうでないものを含めて)作品はすべて読んでいます。
図書館やらで借りるのでなく、自分のお財布から払いました。
貧者の一灯ではあるが、助成者があればこそ著作家で居られるということからすれば
半世紀に及ぶサポーターとしてすこし嬉しくなります。


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