2014年11月8日土曜日

ベニスの人肉裁判ならぬ鎌倉の鉢の木訴訟





この謡曲の人気の背景は「忠義と恩賞」
結果としてのハッピーエンドに尽きる。
しかし、企業法務屋目線でみれば・・・
ベニスの商人ほどでもないが奇妙な裁判劇なのです。


緊急招集をうけた東国八カ国からの大勢の鎌倉御家人を前に、
北条時頼は事の次第を告げ、民事訴訟提起を希望するものは申し述べよといいます。

まず最初の判決は、佐野常世が申し立てた「土地所有権回復の訴え」
原告の全面勝訴はいいとしても・・・三十余郷の土地の所有権を否定された佐野の親族共は
どうなるのでしょうか?
一般的には、佐野常世の訴状に対して、親族は答弁書(反論書)を提出し、期日(公判日)が決まり・・・
と裁判は進むのですが、直ちに「判決の言い渡し」
考えられることは、答弁書を未提出あるいは期日に欠席。
実際上よくあることで、明白に分が悪いと裁判するだけ無駄なので無視します。
欠席裁判という言葉がありますが「欠席」すれば、その場で敗訴ってことなのです。
残念なことに、証拠調べとか証人尋問って傍聴人にとって裁判の山場がまったくないまま、ことは終結。


ところで、北条時頼は、修行の旅の大雪の夜
佐野常世からおもてなしを受け、大感激のうちに鎌倉に戻り、
多分ですが、この土地所有権問題について、職権で調査し、事の理非を吟味したのでしょう。
明確に訴状が裁判所に提出されたのかどうか判然としないのですが、
そういう事態は推測可能ですので、裁判官としてお仕事熱心ということのようです・・・

どの裁判官がどの裁判を担当するのかがどういう手続で決まるのかよく知りませんが、
裁判当事者との関係において、除斥されたりしますし、
申し立てれば忌避も可能です。
原告に一宿一飯の恩義のある裁判官が担当していいのでしょうかねえ?
民事訴訟法では「裁判の公正を妨げるべき事情があるとき」は忌避できるとされますから
親族はどうして申し立てなかったのか?
権利の上に眠るものは保護されないのです(笑)



判決には、控訴の可能性を念頭に、判決の強制力を担保するため「仮執行宣言付き」が普通ですが、
どうも、被告である親族は控訴した様子がありません。
というか、どうも一審制のようですねえ、この時代。
そのまま確定判決となったようですので、佐野常世は、判決文をもって意気揚々と
所有地に赴くところでお話は終わります・・・

本当に親族が唯々諾々と引き渡しに応じたかどうか・・・
鎌倉武士とは、言ってみれば「武装農民」
土地のための命をかけるから「一生(所)懸命」
案外、伴も連れずにやってきたわけですから、闇討ちにしたと・・・考え過ぎとも思えない(笑)



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