2015年12月12日土曜日

一葉 丸山福山町




石川さゆりさんの演歌なんですが、タイトルは「一葉恋歌」。
しかし、樋口一葉には、生身の色恋の匂いがしない。
半井桃水との恋愛もどきとかなんとかオトコの影はないではないが、
色恋でなく生活苦で命を削り落としたたった四半世紀の生涯。
毎度の言い方だと、天命を全うするに、無駄に永く生きる必要はない。
晩年の明治二十七年から二十九年にかけての奇跡の一年余で十分だった。


無聊のまま「にごりえ」を・・・実のところ結構真面目に精読しました。
岩波文庫で45ページ。しかし、句点はたくさんありますが、読点は22箇所だけ。
雅俗混合擬古文というらしいが、サナダムシのような長ったらしい文章は、
ええ加減に寝ころんでの斜め読みだと読み間違う。


舞台は、本郷丸山福山町。
こんな辺りに私娼窟があったのか?(現在の文京区西片あたり)
大名屋敷跡で中流階級の新興住宅地だし、
根岸の根津神社界隈の遊郭が赤門大学の風紀を乱すという理由で州崎に追いやられたのはそのしばらく前。
しかし、日当たりの悪い谷下なんかには、一葉家族のような貧窮家庭や銘酒屋なる売春窟が折り重なるように佇む淀んだ世界。
原作には、新開地というだけで具体的な地名は登場しない。
新吉原界隈というのは誤解だったみたいです。
新開地の銘酒屋は、新吉原よりはるかに下流なのです。
下流なればこそしぶとく生きていたらしい。


つまるところ、一葉の恋歌ではなく、にごりえのヒロイン、菊の井のりきの哀しい生涯唄なんですよ。
困窮家庭から堕ちるところまで堕ちてしまえば、後がない。
羽振りのいい布団屋のオヤジも娼婦に入れ込み、妻子にまで逃げられれば、あとは堕ちるだけ。
馴染み同士の無理心中。
道行なんて言うほど美しくはない。


貧しさにあけくれ泣いて身を削り
この世を生きる塵の中
賑わい哀し花街の
本郷丸山福山町


作詞家さんは、相当にこの小説を読み込み、一葉にりきを、りきに一葉を被せ描いたようです。

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