2014年12月3日水曜日

定家の恋の物語



身分違いの秘めたる恋
今明かされる一回り年下オトコの怨情


中流程度のオンナがいいって、雨の日の宿直の夜咄で高貴な身分の若者は
経験したアバンチュールを語るのですが、中流以下のオトコは逆に高貴さに憧れる。


二人の間にそんな感情の交わりがあったという証拠はない。
証拠がないから「秘めたる恋」である。
式子内親王は後白河上皇の娘であり、御子左系の歌人で俊成のお弟子。
従って、俊成の息子の定家とは姉弟弟子ってことになります。
年齢・身分はともかく、歌人としての評価の高さには定評がある。
何時の世も「大物カップル」は、ゴシップネタですので、単なるウワサかも知れません。


内親王はながく賀茂の齋院であった。
齋院とは、巫女であり、神の妻。
人並みの恋なんか許されるはずはない・・・(終生独身だったはず)



秋の素人会が終わると、暫くは次の練習曲選びに熱が入らないのですが
来年(・・・また出るとしてですが)捲土重来ってこともあり、
品位の高い優雅な曲で、今の季節にふさわしい・・・(立冬も過ぎた頃に桜テーマの謡曲を謡うようじゃ
センスが疑われます)ってことで「定家」でも。



典型的な能のスタイル。
諸国一見の旅の僧あらわる(これは複式夢幻能といわれる形式の定番)
時雨に遭遇し、雨宿りしていると現れたのが・・・
里の女に化体した式子内親王の霊。
その「苦悩」を延々と語り、煩悩の払いを懇願するのです。
その夜、草木も眠る丑三つ時、お墓のなかから式子内親王(亡霊)があらわれます。
絶世の美女だとの記述は読んだことはないのですが、きっと気品のあるお方だった
と思うのですが、霊女の面をつけ、相当に窶れています。
その絶景が、背筋を凍らせます・・・
旅の僧の霊験あらたかなお経のおかげで、魂の平安を得た式子内親王の霊は、
心静かにお墓に戻って行くハッピーエンド・・・


内親王は、五十歳で逝去されますが、定家は長寿で、その後四十年も生きながらえます。
二人の間には恋愛感情があったというより定家のストーキング的感情があったと思うほうが面白い。
定家の残された長い年月は如何なるものであったか?
また、彼岸の地でふたたび見え得た時の情景や如何


実のところ、この謡曲では、定家葛が内親王の墓にまとわりつくという
おぞましい風景がモチーフであり、そのおぞましさに内親王が苦しむってところを
品位高い謡うのがミソ。



では実はないのですねえ。
仏の法力で、内親王の墓にまとわりつく定家葛は、一旦は墓を解き放つのですが
旅の僧が出立すると、またぞろゾンビのように葛が墓石に絡まりつこうとするさまを暗示します。
ハッピーエンドではないという珍しい作りです。


怖いですねえ・・・
この能の真髄は、タイトルロールの定家が実際に登場しないことにあります。
かのヒッチコックの「レベッカ」と同じ。
あのサスペンスでレベッカが登場すると途端につまんなくなるはず。
才能とは時空を超えて共有されるのです。





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