2015年6月1日月曜日

ナツハキヌ



卯の花の 匂う垣根に 時鳥
早も来鳴きて 忍音もらす 夏は来ぬ


所謂「和歌」はミソヒトモジで「五・七・五・七・七」
旋頭歌(ポスト万葉集では廃れました)ならば「五・七・七・五・七・七」
この唱歌はどういうわけか「五・七・五・七・七・五」
明治の頃の作品だからという過渡期形式でしょうか?


後年、演歌を代表とされる歌謡の世界は「七・五」を繰り返すスタイルとなりましたが・・・


さとわのほかげも もりのいろも
たなかのこみちを たどるひとも
かわづのなくねも かねのおとも
さながらかすめる おぼろつきよ


こんな感じです。
大正の頃の作品でレトロですが不思議といまでも様々カバーされます。




しかし、冒頭の「なつはきぬ」は難しい歌詞である。
き(来)はカ行変格活用動詞(く)の連用形で「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形。
従って、 spring is over, summer has come ! って意味になる。
けっして、夏には正絹の絽の着物ってことじゃない(これはこれで涼やか・・苦笑)

陰暦の夏は四月に始まる。
だいたい、新暦だと5月から七月。
だから四月はその頃に咲く花にちなんで「卯月」が異名
ホトトギス・・・

杜鵑
杜宇
蜀魂
不如帰
時鳥
子規   

・・・と様々故事来歴にちなんで難解漢字があてられるが、
これまた新暦五月頃(旧暦夏の初め)からさえずりだすそうな。

要するに初夏を代表する二大風物ってことになる。
今どきは、耳にホトトギスの声、目に卯の花・・・を感じるのは相当な贅沢というものです。
その意味で「目には青葉」って、江戸前の美意識の堕落なのですよ。


鳴く声を えやは忍ばぬ ほととぎす 初卯の花の 蔭に隠れて
五月山 卯の花月夜 ほととぎす 聞けどもあかず また鳴かむかも
卯の花の 垣根ならねど ほととぎす 月の桂の 蔭に鳴くなり


古今集の夏巻、特に初夏のころ(つまり巻頭あたり)には相当数のホトトギスが登場しますが、
卯の花との絡みは抜粋するとこの程度しかない。
塚本の「清唱千首」ではたった一首(名歌が少ないってことです)
梅にウグイスはやまとあることと対照的。
いずれも、勅撰和歌集に選ばれた以上、それなりなんでしょうが、後世人気がでることもなく、
本歌取りの妙味をみせた佐佐木信綱さんの唱歌のみが今なお有名である。


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