2018年5月18日金曜日

虚構の大伽藍



時代は大正の最末期から昭和の初め
場所は、北相模の荒涼たる丘陵地帯。
私鉄T線の終点辺り。
普通に考えれば東急の...今で言う東横線と思われます。
桜木町まで延長したのが昭和八年。
そう考えれば、港北区の外れあたりだ。

犯罪の客体たる犠牲者はさておき、
犯罪の動機、方法なんかははっきりと言えばよくわからない。
犯人も明示されますが、得心するものはない。
ただただ澁澤龍彦ご愛顧の稀代の錬金術師のような法水倫太郎の
超現実的で無内容な饒舌だけがリアリズムである。

これがミステリーなのか?
って言うが、無意味、理解不能なプロットが散りばめられているのは、
チャンドラーやハメットも変わりはない。
誰でも知っている傑作の映画化に際して
ハワードホークスは、チャンドラーにある問い合わせをした。

なに!犯人とか動機?
僕にも分からないなあ...

起承転結が完璧であることが、名作の証明ではない。
しかし、破綻すればやはり不味いですよ。

黒死館殺人事件がミステリー史上最高ランクにもかかわらず
ひたすら大衆人気に欠ける...つまり、常識的なミステリーからあまりに
逸脱しているが理由であるが、
その原因は、法水倫太郎氏のキャラクターにある。
有り体に言えば、単純な事件を複雑怪奇にする(^-^)

ミステリーは犯人を逮捕すれば終わるだが、刑事司法として
送検、起訴、判決で初めて完了する。
法水倫太郎が手掛けたどの事件も検事が公判維持ができるとは思えない。
しかし、彼の時代は戦前のこと
検事は判事と同じ高さの位置で、被告弁護人は一段低い位置にいましたし、
自白さえあれば有罪間違いなし。
なんせ、自己負罪拒否特権すら認められていなかった。

因みに、法水氏は元捜査局長。
今ならば、警視庁刑事部長かな?
いまは、刑事弁護士という設定。
法廷に立つのかどうか知りませんが、一体どんな弁論をするのでしょうか?
残念ながら原作本はない。

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