2014年7月21日月曜日

なぜ「彼女」が重要なのか(改版)



彼女は、中部ドイツで生まれ、
ポーランドとリトアニアの中間地で育成された中流ユダヤ家庭の出身である。
その波乱の人生から・・・
ファシズム(ナチズム)とスターリニズムをともに全体主義として深く批判し、
政治参加と公的領域の重要性を唱え、さらに思索と判断にもとづく精神生活の意義を説いた。


21世紀のいま、全体主義の根は姿形をかけていまだに生き残り、
消費社会と技術社会のなかで、
かつての命がけの革命がめざした新しい政治のかたちは窒息死寸前。
さらに誤った思索と判断が世界の対立を激化させ、人類の将来を危うくさせている。
だから彼女の課題はいまも未解決のまま残されている。

過剰同調性(集団ヒステリーあるいは大衆迎合)は、どの社会にも存在し、
それは、全体主義の潜在的可能性であり、アメリカにおいてすら
マッカーシズムとして、多くの不幸を生み出した。


彼女によれば・・・

全体主義は「政治」の消滅である。
正しい「政治」とは思索し行動する人間により行為され、
全体主義はそのような人間を排除する。
がんじがらめの全体的意志のもとに人々は屈服を強いられる。
テロと戦争の恐怖が思考を麻痺させていく。
対立を煽り立て、思考の麻痺状態に人々を追い込んでゆく。
全体主義は20世紀に登場した新たな統治形態だが、
それは第二次世界大戦の終結とともに終わったわけではなく、
いまや手を替え品を替えていまも・・・
それも狡猾巧妙に民主主義的な皮を被ってつづいている。

 
彼女は、孤独な思考するマイノリティである。
従って、彼女が「イスラエルのアイヒマン裁判」から読み取ったものは、


絶対悪としてのナチスの代弁者:アイヒマン
無謬の抵抗運動
被害者以外の何物でもないユダヤ民族


という刷り込まれた歴史認識へのアンチテーゼであり、
一番痛い点を暴かれたという「憤激」が、まさしく麻痺した思考からくる攻撃となった。


2012年に「彼女をタイトルロール」とする映画が制作され、上映され、k
岩波ホールが連日満員御礼となったことは「社会現象」である。
しかし、それは危険な時代到来の警鐘なのかも・・・



ハンナ・アーレントの重要な著作は、ありがたいことにちゃんと邦訳されてます。
しかし、残念なことにどれも大部で難解。
お手軽に読もうってたぐいな内容じゃないですが
知る限り一番知的でお手軽な「入門解説」書がこれかな。


なぜアーレントが重要か(みすず書房版)
ハンナ・アーレント「戦争の時代を生きた政治哲学者」(中公新書版)

先日、本棚整理をしましたが、彼女系の著作は、センターじゃなく
毎晩お神酒を上げながらの別室に鎮座させています。

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